東京高等裁判所 平成7年(ネ)941号 判決 1995年7月06日
控訴人(原告)
石川桂
被控訴人
沓沢賢治
主文
本件控訴を棄却する。
当審において拡張された請求部分を棄却する。
控訴費用(当審において拡張された請求部分に関する分も含む)は控訴人の負担とする。
事実及び理由
一 控訴人は、「1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。2右取消に係る部分につき、被控訴人は控訴人に対し、二二万八三五〇円を超えて三〇四七万三六九六円に至る金員及びこれに対する平成二年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。3(当審において拡張された請求部分)被控訴人は控訴人に対し、三〇四七万三六九六円を超えて三五四四万九三三六円に至るまでの金員及びこれに対する平成二年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。4(訴訟費用)第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却を求めるとともに、右3項につき請求棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、以下に付加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。
控訴人は、当審において、本件事故によつて控訴人に生じた損害元金及びこれに対する遅延損害金は、前掲一の3項に記載の金額の範囲で従前の請求額を超える金額に拡張していることは控訴の趣旨に照らし明らかであるから、控訴人は、右拡張された金額相当額も本件事故によつて控訴人に生じた損害であると主張し、したがつて、従前から控訴人の主張する損害賠償義務のほか右拡張した損害元金及び遅延損害金の支払義務が被控訴人にある旨主張するものと解することができる。また、被控訴人が当審において右控訴人により拡張された請求に係る損害の発生とその賠償義務を争う趣旨であることは、その答弁の趣旨に照らし明らかである。
三 証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
四 当裁判所は、控訴人の本訴請求中、原判決が認容した金額を超えて原審における請求損害元金全額(三〇四七万三六九六円)に至るまでの金員及びこれに対する平成二年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分及び当審における請求拡張による請求部分は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下に付加するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。
1 控訴人は、原判決の認定判断(特に過失とその割合についての認定判断)及び証拠の取捨選択につき繰り返し誤りがあると非難する。しかしながら、原判決は、原審において提出、採用された前掲乙第二号証(東京地方検察庁から原審裁判所に宛てに送付された実況見分調書等謄本、乙第一号証参照)、原審における証人町井賢郎(実況見分調書作成の司法警察員)の証言及び証人中山紀(バイクで被控訴人車の後から追従走行し本件事故を目撃した大学生)の証言、さらには、被控訴人本人の供述等に照らし、控訴人本人の供述を採用せず、前掲各証拠を併せて総合的に認定判断しているのであつて、右証拠の取捨選択及び事実の認定判断は相当であつて控訴人主張のような誤りは見当たらない。本件全証拠中、控訴人の主張に沿う事実を述べるものは、原審における控訴人本人の供述と控訴人の陳述書、上申書の類いしかないところ、控訴人は本件事故による衝突でその直前ないしその瞬間に記憶を失い、事故直後病院に運ばれ入院し、事故後相当期間(二病院に合計五一四日間入院)していたことでもあり、そのいうところには、前掲各証拠に現われた事実と合致しない部分、不自然ないし不合理な点も多々見受けられるのであつて、これら以外の証拠並びに弁論の全趣旨に照らし、事実に則して正確なものとみることは難しいといわざるを得ない部分が多い。要するに、原判決認定の事実のもとでは、本件事故における控訴人と被控訴人との過失とその割合に関する控訴人の主張は、その前提となる事実関係の把握が、原判決認定に係る事実関係と異なつた、いわば控訴人独自の推測、推理のもとに想定した事実を前提としていうものであつて、前掲各証拠とこれにより総合的に認定された前示事実に照らしみる限り、これをたやすく肯認することはできないのである。その他、控訴人は原判決の事実認定、証拠の取捨選択につき縷々いうが、これらにしても、ひつきよう、事後的な推測、推断した事実を基にして、独自の主張をするか、右主張に沿わない原判決の認定判断につき非難を繰り返すものであつて、いずれも採用することができない。
五 よつて、本件控訴は理由がなく、また、当審における拡張請求部分も理由がないから、いずれも棄却することとし、控訴費用(請求拡張部分に関する分も含む)の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宍戸達德 伊藤瑩子 佃浩一)